エラールはその後、世界恐慌、第2次世界大戦と大きな時代の波にもまれ、ブレイエルというピアノメーカーと合併をしますが、20世紀半ば、すでに生産を終えてしまい、今は幻のピアノとなってしまいました。
さて、エラールのピアノはこの時代の作曲家にどのような影響を与えたのでしょうか。ベートーヴェンの作品の中で1803年から1816年まではエラールのピアノを使って作曲しています。F1からc6までの5オクターヴ半の音域のこのピアノを使って作曲したピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」は、低音の反復音で始まり、突然高音域に跳躍して旋律が流れます。熱情の最終楽章は最高音c6がとめどもなく表れます。リストの「ラ・カンパネッラ」の改訂版はエラールのピアノ限定でしか演奏できませんでした。ショパンは「エラールは何もかもがいつも美しく響く。だから美しい音を出そうと細心の注意を払う必要がない」という言葉を残しています。